心の鎮静と浄化
➖サットヴァを高める➖
1. 純粋な静寂を体験する
忙しく過ごす時間が続くと、心に余裕がなくなります。「雑念が増えてストレスが溜まっているな」と感じられるかもしれません。呼吸が速くなり、さまざまな思いが走馬灯のように駆け巡ることもあります。呼吸や思いは、休みなく連続しているものと思われがちです。しかし、インドの叡智によると、呼気の間には息をしていない状態があり、思いと思いの間にはギャップがあると言われています。そしてその間(ギャップ)が、雑念のない純粋な静寂の場なのだと考えられています。
【ギャップに触れるための手順】
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自分の内外の音を減らす。
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テレビやラジオを消し、電話なども鳴らないようにして、静かな環境を作る。
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自分の好きな姿勢で座り、目を閉じて自分の内側を眺める。
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最初のうちは、心がおしゃべりをしたがるかもしれないが、そのような雑念も出るにまかせながら、自分の呼吸を眺めてみる。
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アナパーナサティ(呼吸観瞑想法)を行う。
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アナパーナサティとは仏教の瞑想方の一種で「息を吸っている・吐いている」という状況を、ただ眺めること。「マインドフルネス」の状態を体験するために有効な方法。
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集中瞑想(サマタ瞑想)などの瞑想法を行う。
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楽な姿勢で座り、マントラ(真言)を心の中で繰り返す。
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こうした瞑想は、何事も忘れてもいい・・・・と思える「無邪気」、こうあるべき・・・などと決めつきない「無判断」、じっとしていなければいけない・・・といったこだわりを持たない「無拘束」で望むとよい。朝・夕それぞれ20〜30分ほど行う。
マントラを使った瞑想を行ううち、繰り返すマントラが乗り物となり、私たちの意識が純粋な静寂の場へ降り立つことを促してくれます。そうして、言葉と言葉、思いと思い、呼気と呼気の狭間(ギャップ)を体験した時、心は安らぎ、故郷に帰ったような安心感や至福感に満たされます。このうな体験によってサットヴァは増加し、メンタルアーマ(心の未消化物)も浄化されます。さらに深い静寂がおとずれる時には、至福感さえも超えた無念無双の状態に至ると言われています。至福を感じている段階ではまだ残っている「私」という意識さえもなくなった、無我の状態を体験できます。それが「純粋な静寂」です。純粋な静寂の場合は、完全なる健康の場であり、自然治癒力の源です。純粋な静寂では、「くつろぎの機敏さ」を体験することができます。これは「第四の意識状態」とも言われ、くつろいでいるけれどもボーッとしているわけではない状態にあるとも言われています。
この時の呼吸はケーバラクンバカと言われ、呼気と呼気の狭間で休止するのが特徴です。この状態は、意識の最小励起状態であり、代謝がきわめて低下しています。アルファ波からシータ波までの脳波が脳の中心から前頭部にまで広がり、左右と前後における脳波が同期します。さらに、脳内モルヒネの分泌も盛んになっていると考えられています。また、純粋な静寂は、時間と空間のない体験(timeless, spaceless)です。時間がどれだけ経ったのか、自分がどこにいるのかを忘れてしまうこともあります。これは意識が変容した「変性意識状態ASC(Altered State of consciousness)と呼ばれる状態です。ASCは、瞑想に限らず、例えば無我夢中で趣味を楽しむことなどによっても体験することができます。好きなことに没頭すると時間を忘れてしまいますが、この時はマインドフルネスの状態になっており、ストレスが解消されるということがわかっています。さらに、脳内の海馬組織も活性化されるということが推定されています。
2. 無判断に徹する時を持つ
(マインドフルネス)
判断とは、物事の良し悪しを評価することです。私たちは日常生活において、自分の価値観において判断をしてしまいます。評価・分類・分析などを行うとき心の中には乱れが起こり、想念と想念のギャップが狭まります。そこで判断をやめると、心を静寂にすることができます。こだわりのない広い心を保てるようになります。まずは、「今日はすべての出来事を判断しない」という言葉から1日をはじめてみましょう。そして、何事も判断しないよう注意し、無判断の時間を徐々に長くしてください。
3. 休息をとって自然に触れる
山や海などの自然に触れる機会が不足すると、ラジャスやタマスが増大します。特に山の緑は、心を鎮めてサットヴァを増やしてくれます。いきりたったり、焦ったり、自信を無くしたりしてしまった心が、純粋性を取り戻す助けとなることでしょう。また、自然の中で数日間ほど規則正しい生活を送れば、休息がとれて体内リズムの狂いを戻すことができるはずです。自然の中では、すべての生き物の内なる知性を、ただ黙って目撃してみましょう。静かに座って夕日を眺めたり、小川のせせらぎに耳を傾けたりするうち、自分が大宇宙の中で生き、生かされていることを実感できることでしょう。
4. オージャスを増やす
① オージャスを増やす食物を摂る
アーユルヴェーダでは、食物が心に作用を及ぼすと考えています。食物からはオージャスも産生されるので、適切な食物を摂ることは体と心の双方に必要なことです。甘いものや果物、牛乳、ゴマなどはサットヴァを増やす食物です。甘く美味しくて栄養バランスがとれているものは、すべてオージャスを増やします。ただし牛乳に関しては、古代インドと現代における摂り方が異なっていることを知る必要があります。イギリス人学者のジェイン・プラント氏は、著書『乳がんと牛乳』の中で、自身の乳がんが再発した後に、牛乳をやめたことにより、以降は再発しなくなったという事例を紹介しています。このことは、牛乳に含まれるIGE-1(Insulin-like growth factor)やエストロゲンが、がんの原因のひとつであるということを示唆しています。また、果物についてもオージャスを増やすと言われていますが、豊富な果糖が血中でタンパク質と結合してAGEsをたくさん生成するので、食べ過ぎには気をつけましょう。AGEsは、老化を促進する毒素の一種です。一方、激辛食品はラジャスを増やします。レトルト食品も、タマスやラジャスを高める食品の代表だと言われています。
【サットヴァ・ラジャス・タマスに富む食べ物の性質】
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サットヴァ(純粋性)に富む食べ物:生命力・勇気・健康・幸福・喜びを増大させる、腹持ちがよい、油質、食べていておいしく心地がよい
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ラジャス(動性)に富む食べ物:苦味・酸味・塩辛味などが過度であり刺激が強い、油気がない、苦痛と災いと病気をもたらす
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タマス(惰性)に富む食べ物:新鮮さに欠ける、味を失っている、悪臭がある、調理されて時間が経っている、食べ残しで不浄
②オージャスを増やす方法で食事をする
何を食べるかだけではなく、どのように食べるかも重要です。オージャスの生成は、消化をよくすることで高まると考えられているからです。ディーパック・チョプラ氏の著書『パーフェクトヘルス』には、オージャスを増やす食べ方のポイントが紹介されています。
【オージャスを増やす食べ方】
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落ち着いた空間で座って食べる
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食事中は会話せずに集中する
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よく噛んで食べる
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できたての温かいものを食べる
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よく調理されており半煮えでないもの、適度に油分を含むものを食べる
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食べたものが消化されるまで次の食事をしない(次の食事まで4〜6時間空ける。軽食の場合は2〜4時間)
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食事中にお湯をすする
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加熱したハチミツを摂らない(アーマのもとになるため)
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食事と合わせて牛乳を摂らない(ミルクのみで飲むか、甘い食品と合わせて摂る)
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毎食、6種類の味すべて摂る(甘味・酸味・塩味・辛味・苦味・渋味)
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満腹まで食べず、2/3〜3/4の腹具合にする
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食後はすぐに動かず、数分間は静かに座って過ごす
③ラサーヤナを行う
ラサーヤナとは、強壮長寿法のことです。方法としては、以下の2つがあります。
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ラサーヤナ(滋養強壮薬)を飲むこと
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トリファラー
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チャヴァナ・プラーシュ
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アムリット・カラーシュ
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アシュワガンダやシャタバリ、ムクナなどの単一素材
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アーチャーラ・ラサーヤナ(行動のラサーヤナ:倫理的な生活を守ること)
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真実を語る
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休息と活動のバランスがとれた規則的な生活を送る
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気候や季節に従った生活をする
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健全な食事法を実践する
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人に与える(お金や食べ物、知識、優しさなどを人に施す)
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霊的理解を持つ(魂のレベルで物事を考える)
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暴力を振るわない
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怒りや攻撃を避ける
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酒や性行為に溺れない
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他人を傷つけない(非暴力)
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滋養強壮薬はインターネットなどで個人輸入することも可能です。生活習慣を整えるアーチャラ・ラサーヤナ(行動のラサーヤナ)にも不労長寿作用があります。これらを実践する人には滋養強壮薬は必要ないとさえ言われています。