top of page

チベット仏教について

  • 執筆者の写真: Owner
    Owner
  • 3月26日
  • 読了時間: 8分

更新日:4月2日

チベット仏教 or チベット密教?

 チベット仏教について知りたいと思った時、真っ先にぶつかるこの疑問ではないでしょうか。仏教は戒律を重視した修行により悟りを目指す顕教と実践的な修行を重ねることにより悟りを目指す密教とに大別されます。また最初に密教が誕生したのは2世紀頃で、それ以前は顕教をもとにした仏教のみが存在していました。現在では密教は2〜3世紀頃を前期、7〜8世紀頃を中期、8〜12世紀頃を後期と大別され、この後期密教がチベット密教(タントラ密教)とされています。後期密教では秘密集会タントラをはじめとした性的ヨーガを取り入れたタントラ(無上ヨーガタントラまたは無上瑜伽)に基づいた、実践的な修行(性的ヨーガまたは性瑜伽)が行われるようになりました。

 

 チベットにはもともとポン教というチベット特有の信仰があり、仏教の伝来によって、このポン教を基盤にして仏教が密教へ融合し、チベット密教が誕生したと考えられます。チベット密教が誕生してからも、徐々にその修行、解釈方法に変化が生じ、いくつもの宗派が誕生しました。代表的な宗派はゲルク派、サキャ派、カギュー派、ニンマ派の四つですが、その他にも数多くの宗派が存在し、宗派や高僧の解釈により、顕教と密教を取り扱う比重は異なります。

 

 チベット密教最大派閥ゲルク派の開祖であるツォンカパ(1357〜1419年)は、まず戒律を守り修行を重ねる顕教を習得できるようになった者のみが密教の修行に入ることができる、と考えました。顕教の修行をせずに、密教の修行を始めてしまうと堕落へつながると考えていたようです。

 結論としては、仏教の中に密教が内包しているため、チベット仏教=チベット密教と言えなくもないのですが、厳密にはチベット仏教とチベット密教はイコールではありません。チベット密教を日本の仏教に照らし合わせて解釈しようとすると、類似点も多くあり、とても身近に感じられますが、同時に違いもあるため混乱もします。チベット仏教の方が聞き馴染みがあるので、他のページではチベット仏教と表記していますが、シャーパの人々が信仰しているのはチベット密教なので、このページではチベット密教の表現に統一しています。

 

以下にチベット密教の四大宗派について簡単にまとめました。

チベット密教の四大宗派


ニンマ派
サキャ派
カギュ派
ゲルク派
開祖

パドマサンバヴァ

コンチョクギェルポ

マルパ・キュンポ

ツォンカパ

中心教法

大究竟(だいくっきょう)

道果説(ラムデー)

大印契約(マハームドラー)、ナーローの六法など

ラムリム

概要

8世紀頃、チベット固有の信仰であるポン教を基盤にしてパドマサンバヴァが確立した宗派です。数多く存在する宗派の中で、最も歴史が古く、旧訳派また赤帽派とも呼ばれています。顕教の教えを重視し、戒律を重んじます。


11世紀頃、コンチョクギェルポにより建立されたサキャ寺を本拠地に形成された宗派です。その息子のクンガニンポが最も性的ヨーガの実践を重視した経典『ヘーヴァジュラ・タントラ』を元に築き上げた「道果説(ラムデー)」を修行の基盤としています。チベット密教の中では比較的密教色の強い宗派です。


11世紀頃、マルパとキュンポにより確立された宗派です。マルパはマイトリーパとナーローパ、キュンポはマイトリーパとニグマ(ナーロパの元妻)から教えを授かりますが、この二人の間には全く交流はなく、のちにそれぞれの思想をめぐり対立することになります。性的ヨーガの実践的修行を重視し、最も密教色の強い宗派と言えます。

14世紀頃、ツォンパカにより、ニンマ派出身のプトゥンの考え方を継承しさらに発展させ、確立された宗派です。それまでのチベット密教の修行における難題であった戒律を重んじる顕教と性的ヨーガの実践を重んじる密教の対立を、ツォンカパは顕教の修行を習得した者のみが密教の修行に進むことができる、という考え方に確立しました。


チベット密教史チャート

​ チベット密教は長い時間をかけて四大宗派を始め、様々な宗派に枝分かれしてきました。そのため、概要を理解しようとするととても混乱します。下記は大まかな宗派形成の流れを把握するためのチャートです。チベット密教について理解する時の参考にしてください。


神様の種類

 神様とは?仏様とは??そもそも仏とは仏陀のことです。そして仏陀とは釈迦如来の事であり、日本ではお釈迦様や仏様、英語ではBuddhaと呼ばれています。しかし、チベット密教には釈迦如来の他にも如来はたくさんいて、如来の他にもたくさんの尊格(神様の種類)があります。具体的なカテゴリーとしては如来、祖師、守護神、菩薩、忿怒尊、羅漢、護法尊の7種類で、このうち羅漢を除く6種類には男性・女性の別があります。

如来
​にょらい

悟りを開いた尊格のことを如来と呼びます。悟りを得ているので、体を飾りたいという欲望はなく、基本的には粗末な身なりをしています。仏陀として有名な釈迦如来の他に、大日如来、阿弥陀如来、阿閦如来などが有名です。

祖師
そし

実在した、高層や大成就者を仏格化した尊格です。成仏しても永遠に生まれ変わると考えられています。菩薩と同等レベルに扱われます。有名なダライ・ラマは観音菩薩、パンチェン・ラマは阿弥陀如来の化身とされています。

守護尊(Idam)
​しゅごそん

 数多く存在する密教聖典それぞれの本尊です。『秘密集会』のグヒヤサマージャや『時輪タントラ』のカーラチャクラなどがあります。

菩薩
ぼさつ

悟りを目指し修行中の尊格です。まだ完全に悟りを得ていないので、装身具を身につけています。観音菩薩、文殊菩薩、弥勒菩薩などが有名です。特に観音菩薩には数多くの変化観音があり、人気です。

忿怒尊
ふんぬそん

チベットには明王という概念がありませんが、忿怒尊は日本で明王とされる尊格です。菩薩と同等レベルに扱われます。

護法尊
ごほうそん

ヒンドゥー教やボン教の神々を仏教に取り入れて形成された尊格です。尊格としての地位は低いですが、大衆からの人気は高いです。


曼荼羅

 一般的に曼荼羅は円形または正方形の対照的な図の事と解釈されているのではないでしょうか。しかし、チベット密教における曼荼羅はそれだけではなく、瞑想修行の際に用いられる密教経典を模した図像の事を指します。チベット密教には数多くの密教経典(タントラ)があり、修行方法や思想はそれぞれのタントラにより異なります。そのため、瞑想修行に用いる曼荼羅にもたくさんの種類があります。曼荼羅の視覚上の特徴は以下の四つです。

  1. 強い対称性
  2. 基本的に円形か正方形
  3. 閉鎖形(外部からの侵入を許さない)
  4. 幾何学的な形態
​​

チベット密教における曼荼羅の特徴はさらに三つあります。

  1. 仏菩薩や神々、もしくはそのシンボルが配置されていること
  2. 仏菩薩や神々が住む場所があること
  3. 曼荼羅を見ている人間がいること

​ 曼荼羅は元になっている経典(タントラ)によって分類されます。たくさんあるタントラは、密教前期に誕生した所作タントラ、中期に誕生した行タントラと瑜伽タントラ、後期に誕生した無上瑜伽タントラの四つに分けられます(タントラ四分説)。チベット密教とされる後期密教の無上瑜伽タントラはさらに父(ちち)タントラ、母(はは)タントラ、不二(ふに)タントラの三つに分類されます。

所作タントラの曼荼羅

所作タントラはインドにおいて比較的初期に成立した密教経典で、日本では雑密経典と呼ばれます。薬師如来、七仏薬師、日光、月光菩薩、十二神将、四天王など、日本人にも馴染みの深い仏様が整然と描かれています。

行タントラの曼荼羅

行タントラは胎蔵曼荼羅を説く『大日経』系の密教に相当します。胎蔵曼荼羅はチベットでは非常に珍しく、世界でも10点前後の作品が存在するのみです。チベットの胎蔵曼荼羅は時代的には日本の胎蔵界曼荼羅より遅れています。

瑜伽タントラの曼荼羅

瑜伽タントラは金剛界曼荼羅を説く『金剛頂経』『理趣経』系の密教です。チベットに日本の九会曼荼羅に相当するものはありませんが、九会の成身会に相当する金剛界曼荼羅、降三世会に相当する降三世大曼荼羅などが単独で描かれます。

無上瑜伽タントラの曼荼羅

無上瑜伽タントラは非常に種類が多く、父タントラ、母タントラ、不二タントラの3種類に分けられます。代表的な曼荼羅は『秘密集会タントラ』(父タントラ)の阿閦金剛三十二尊曼荼羅とヴァジュラバイラヴァ十三尊曼荼羅、​『ヘーヴァシュラタントラ』(母タントラ)のヘーヴァジュラ九尊とサンヴァラ六十二尊曼荼羅です。​​『時輪タントラ』(不二タントラ)の身口意具足時輪曼荼羅は最も規模が大きな曼荼羅です。無上瑜伽タントラの曼荼羅は非常に種類が多く、チベットを代表する曼荼羅といえます。しかし、日本には一部を除いて伝承されていません。

ジュンベシ村の入り口、天井部分に描かれた曼荼羅
ジュンベシ村の入り口、天井部分に描かれた曼荼羅

チベット密教

 密教とは文字通り秘密の教えです。チベット密教は修行の最終段階に性的ヨーガの修行を取り入れていました。この修行は戒律に反するため、全ての人に公開される事が憚られたのです。そして、さまざまな厳しい修行を習得した特別な者にのみ教えることを許されたのでした。現在では戒律を重視し、性的な部分は観想の修行を取り入れ、実践的な性的修行はないそうですが、謎の多い部分はたくさんあります。

コメント


bottom of page