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アグニとオージャス

消化や代謝を司る火のエネルギー「アグニ

 アグニとは、「消化の火」「代謝の火」などと訳され、胃内の消化液などが持つエネルギーです。現代医学では酵素活性ともいうことができますが、酵素そのものというよりも、酵素にその作用を与えているエネルギーのことを指します。体内における「変換」の働きを担うものと言うこともできます。​アーユルヴェーダでは、13種類のアグニがあり、その変化をになっています。

 アグニは、食べたものが血漿のダートゥを生成する過程で働きます。たとえば、食べたいものが血漿のダードゥへと変換される際にも働きますし、血漿ダートゥから血液ダートゥへと変換される際にも、アグニの力が働いています。アグニは好調であれば組織はうまく生成されますが、不調になれば生成が滞り、各組織の蓄積や萎縮が起こります。​7つの組織は、血漿→血液→筋肉→脂肪→骨→神経→生殖器の順で生成されるため、たとえば脂肪を骨に変換するアグニが不順になった場合、脂肪が蓄積して太りやすくなります。また、筋肉から脂肪への生成が進まないときには、脂肪が萎縮して痩せていきます。このことから、アグニが不順になった場合には、太るか痩せるかのいずれかの症状があらわれる可能性があります。

 アグニが働く変換の過程では、活力素である「オージャス」、未消化物である「アーマ」、完全燃焼したあとの燃えかす「マラ」も発生します。エネルギーのアンバランスなどによってアグニが順調に動かなくなると、アーマが全身に蓄積された病気の引き金となります。​また、アグニが消化するのは食べ物だけではありません。たとえば、食べ物を消化するアグニは、トラウマなどの心の経験を消化・解消する働きも兼ね備えています。そのほか、得た情報をもとにして戦略をたてたり、難しいトラブルを処理したりする作用もあります。胃で食べた物を消化する「ジャータラ・アグニ」が不良のときには体のアーマが生成されますが、心の経験が消化しきれない場合は、心のアーマが生成され、これは、解消しきれない精神的なストレス(PTSD〈心理的外傷後ストレス障害〉などの原因にもなり得る)と捉えることができます。

心身を整える活力素「オージャス

 オージャスとは「活力素」と訳されるエネルギーのことを言います。​ちなみに、ヨーガでは「プラーナ」と呼ばれる生命エネルギーの存在を重視しています。アーユルヴェーダではこれに加え、オージャスにも着目しています。

 オージャスは、ドーシャのバランスを維持させてかダートゥ(組織)の変換を助け、免疫力を高める働きを持っています。心身の健康には必須といえるオージャスは、中医学でいう水穀の気(食物から摂取されるエネルギー)に相当すると考えられます。ちなみにプラーナは、天空の気(呼吸によって摂取されるエネルギー)に相当すると言えます。オージャスは、ダートゥの変換の過程で作り出されます。その力を高めるためには、食物の消化はもちろん、心の体験も消化できるような生活が大切です。

 オージャスが低下するとドーシャが乱れ、病気の引き金となります。オージャスの低下などによる異常は、タバコやアルコールの摂りすぎなどが主な原因となって起こります。そのほか、怒りや悲しみなどの否定的感情、過労、過剰な性行為なども原因となり得ます。また、食生活の乱れもオージャスの生成を妨げると言われています。牛肉、鶏肉、魚肉、卵、チーズ、加工食品、油分の多いもの、調理後に長時間放置したものなどは、オージャスの生成を邪魔します。さらに、必要以上に食べすぎたり、酸味や塩味が強いものを過剰摂取したりすることも、消化を阻害すると考えられ、オージャスに悪影響だとされています。​

​【食物の組織への変換と
アグニ、マラ、アーマ、オージャス】
食物
アグニ13種類)
ジャータラ・アグニ
​(胃腸内のアグニ、1種類)
ブータ・アグニ
​(肝臓な内にあるアグニ、5種類)
ダートゥ・アグニ
​(各組織のアグニ、7種類)
病気
アーマ
​(未消化物)
ダートゥ
​(7つの組織)
オージャス
​(活力素)
​健康
マラ(燃えかす)
:大便、小便、汗、爪、頭髪、体毛
ドーシャのバランスと消化の仕組み
➖飯盒炊飯➖

​ 体内におけるエネルギー反応と病気の関係を、飯盒炊飯に例えることができます。体内のエネルギーを、野外で気を燃やしているシーンに置き換えて考えてみます。

体のエネルギー
ドーシャ
飯盒
「水」のエネルギー

カパ

飯盒の中の水と米

「火」のエネルギー

ピッタ

燃えている火

「風」のエネルギー

ヴァータ

吹いている風

 エネルギーのバランスがとれて健康を保っている状態は、飯盒炊飯で言うところの「ちょうど良い加減でおいしいごはんが炊けている状態」。おいしいごはんは、オージャス活力素に相当します。これを食べると体内ではアグニ消化のエネルギーが十分に働きアーマ未消化物が蓄積することがありません。しかし、いずれかのエネルギーが増えたりしすぎてバランスが崩れると、その影響は全ての要素に及びます。

 たとえば、火をたきつける風が強くなりすぎると、炎が大きくなりすぎて焦げたり、加熱のムラができたりするため、ごはんがうまく炊けません。また、無風、つまり真空状態でも火力がたりないため、水分がとばず、半煮えの状態になってしまいます。こうした炊き加減のごはんはおいしくないだけでなく、食べた後に体の中に未消化物を残します。栄養にならないばかりか、吸収されると体内の通路を閉塞させ、病気や老化の原因となります。つまり、アグニ消化力が十分に働かないことでアーマ未消化物が蓄積し、オージャス活力素も生成されないという状況に陥り、病気や老化を招きます。この結果は、心身の不調に置き換えて解釈することができます。

 「風」のエネルギーが増えすぎると、ヴァータの性質である乾性・軽性・冷性が増加します。すると、手足や髪などが乾燥したり、痛みが出たりすることがあります。気分がかわりやすくなったり不安感が強くなったりすることもあります。また、アグニの変動によってアーマが蓄積すれば、スロータスが閉塞して循環機能や神経系の障害が引き起こされることもあります。

 また、「風」の影響を受けて「火」のエネルギーが増大すると、そのマイナス面も表面化します。体内には熱性・鋭性・強烈性という性質が増加するため、熱が出たり炎症が起きやすくなったりします。そのほか、胃潰瘍・十二指腸潰瘍などを招くこともあります。これは、「火」はアグニ消化力と同質のため、アグニが強くなりすぎて自分の臓器までも消化してしまうためです。さらに、精神面では怒りっぽくなるほどの変化がみられます。

​ そして、「風」「火」のエネルギーが弱すぎるなどの理由で「水」のエネルギー過多になると、冷性・重性・油性・遅性などの性質が増長されます。また、脂肪組織などがアーマ未消化物となって蓄積し、肥満症や糖尿病を招くことがあります。メンタルにおいては、執念深くなったり活動意欲がなくなったりすることもあります。このように私たちの心身は、5元素の揺らぎによって常に影響を受けています。

​【アーマとオージャス】
​〈ドーシャのバランス〉

ヴァータ

冷性

油性

ピッタ

カパ

軽性

アーマ
​(未消化物)
病気
食事
アグニ(消化力)

不規則:ヴァータの過剰

強い:ピッタの過剰

遅い:カパの過剰

アグニ(消化力)に応じた食事
​ダートゥ(7つの組織)

血漿、​血液、筋肉、脂肪、骨、骨髄、生殖器

オージャス
​(活力素)
マラ(老廃物)
​大便、小便、汗、爪、毛髪、体毛
健康
​自分自身のコンディションを知る

  アーマ未消化物)の蓄積度を調べることによって、病気と健康の度合いをはかります。ドーシャが過剰になって乱れたときに生成されるアーマは、病気の原因になります。アーマには体に関するボディリ・アーマと、心に関するメンタル・アーマがあります。それぞれに対する病気と健康の度合いをチェックしてみてください。

  続いて、オージャス充実度を調べてみましょう。活力素に満ちた健康的な状態かどうかを、10項目のチェックから導き出します。

アーユルヴェーダの健康観と生活の質(QOL)

 アーユルヴェーダではより高いバランスで健康と幸福を増進させる「健康増進」を目標にし、以下の5項目を健康の基準にしています。

  1. ドーシャのバランスがとれている

  2. 食欲がある

  3. 排尿や排便が快調

  4. 組織の生成が正常

  5. ​自我と五感と魂(意識)が至福に満ちている

1.から4.は体の健康状態、5.は心や心のさらに奥にある意識や魂のレベルの健康について述べています。アーユルヴェーダでは健康のことを「スッカ」(幸福、安楽の意味)とも呼びます。健康であることは、幸福であることです。肉体ばかりではなく、幸福感や満足感も健康の条件です。

 

 では、現在の生活における幸福度を、生活の質(QOL= Quality Of  Life)問診表によってセルフチェクしてみてください。あなたの幸福度が、60点満点のうち何点なのかを知る目安になります。

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