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食事療法

​ アーユルヴェーダの食事療法は、普遍的かつシンプルな法則によって理解することができます。例えば、疲れた時には甘いものが欲しくなります。それは、動きの質であるヴァータが増大することにより、ヴァータを鎮静化する味である甘味を欲するようになるからだと考えられます。甘い物を口の中に入れると、ほっとした気分になり、幸福感に包まれたり、運動などで疲れている時には、元気が出たりします。これは、甘い物によってサットヴァが増え、ヴァータのバランスが取れるためだと説明する事が出来ます。一方で甘い物は、カパが増大している人が満腹のときに食べると、だるくなったり鼻水が出たりすることがあります。これは、甘い物によってさらにカパが増大し、重さや水といったカパならではの性質が増大するために、だるさや鼻水が誘発されるのだと考えられます。

  • ラサ:アーユルヴェーダの6つの味

甘味、酸味、塩味、辛味、苦味、​渋味

 では、人体に対して食物がどのような作用を及ばすのかですが、まず、食物が口の中に入ると味(ラサ)がします。そして胃腸に入ると「熱」と「冷」という2つの作用が起こり、これはヴィールヤ(薬力源)と呼ばれています。「冷」性はカパやヴァータを増やし、「熱」性はピッタやアグニを高める働きをします。食物が消化され大腸などに運搬されると、今度は酸味・辛味・甘味の作用が現れ、これはヴィパーカ(消化後の味)と呼ばれています。このような消化の過程で、食べ物はドーシャ(特にボディリ・ドーシャ)のバランスに影響を及ぼします。ヴィパーカの酸味はピッタとカパを増やし、ヴァータを減らします。甘味はピッタとヴァータを減らし、辛味はピッタとヴァータを増やします。これらの反応についてはラサが作用するのと同じ原理によっています。

  • ラサ:食物が口の中に入るとする味

    • 甘味・酸味・塩味 →  ヴァータを減らしてカパを増やす。

    • 辛味・苦味・渋味 → ヴァータを増やしてカパを減らす。

    • 甘味・苦味・渋味 → ピッタを減らす。

  • ​ヴィパーカ:消化後の味

    • 酸味 → ピッタとカパを増やし、ヴァータを減らす。

    • 甘味 → ピッタとヴァータを減らす。

    • 辛味 → ピッタとヴァータを増やす​​

  • ヴィールヤ:薬力源。食物が胃腸に入ると起こる「熱」と「冷」という2つの作用

    • ​「冷」性 → カパやヴァータを増やす。

    • 「熱」性 → ピッタやアグニを高める。

  • プラーヴァ:特異作用

    • ​​甘味(ハチミツ) → カパを減らす。

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 プラーヴァ(特異作用)と呼ばれる例外があります。代表例はハチミツで、甘い味でありながらカパを増やしません。そればかりかカパを減らし、痩せやすくなるとまで言われています。ただし、ハチミツは加熱することによってアーマを溜める作用が出るので注意が必要です。

 味だけではなく、食物に備わっているグナ(性質)もまた、ドーシャに影響を与えます。これは、「似た物が似た物を増加させ、異なる物が異なる物を減少させる法則」に従っています。冷たい食物は冷性をもあつヴァータとカパを増加させ、ピリッとした熱性の食物は熱の質を持つピッタを高め、油性の食物はカパを増加させます。

 しかしこうした作用は、調理法の違いによって変化することもあります。『チャラカ・サンヒター』によると、このような食物の作用は、素材の本来の性質、加工の仕方(調理の仕方と調理する人の気持ち)、組み合わせ、量、産地、素材を摂取する季節と時刻、摂取の仕方、摂取する人の体と心の状態などによって変化するといいます。

​ 例えば、冷たい物を温めれば、当然ながら冷性ではなくなり、熱性など別の作用が現れます。また、生野菜は油で炒めるとヴァータを増やさなくなります。同じ食品であっても、例えば蒸す場合はヴァータを減らすように働き、焼く場合はピッタを増やします。そのほか、調理する人の思いも大切です。心をこめて作った料理は消化しやすく、サットヴァを高めてオージャスを増やします。このように、食物の働きはさまざまな要因によって変わります。情報を鵜呑みにせず、あくまでも目安として役立てるようにしてください。

 食物は、トリグナにも影響を及ぼします。例えば、激辛食品は、ラジャスを高めるため人を攻撃的にさせます。保存食品やレトルト食品はタマスを増やすため怠惰になり、やる気がなくなります。怠惰な人がラジャスを増やす食物を摂ると元気になります。

​ アーユルヴェーダがすすめているのは、サットヴァを高める食物です。サットヴァを高めることで、ドーシャのバランスをよくする事が出来ます。そして、食物はこのようなエネルギーレベルの作用を及ぼすだけではなく、ダートゥ(血や肉など体の7つの組織)に変化します。その過程で、アグニが順調に働けばオージャス(活力素)が生成されます。また、アグニが不順であると、アーマ(未消化物)が生成されます。オージャスは健康の素であり、アーマは病気を引き起こすものですから、食物は両刃の剣になるというわけです。

​ 食養生をする時、「あれがいけない、これがいけない」と制限してしまう人や、「あれがいい」と言われるとそればかりを食べてしまう人がいます。しかし、ここで大切なポイントは「何を」よりも「どのように」です。食事をした結果、満足感や軽快感を得る事が重要です。また、食事は瞑想の一種です。ゆっくりと料理を観察したり、じっくりと味わったり、集中して、時間をかけながら食べることが大切です。

​ アーユルヴェーダでは、食べる時の心構えもまた、消化や吸収に大きく影響を及ぼすと考えられます。焦りやイライラ、悲哀を感じながら食べると、消化が阻害されて未消化物を溜める要因となります。感謝の気持ちを抱きながら、楽しく食べるのが理想的です。その時、自分の体や心が「何を」「どの程度」食べたいのかを確認しながら食べてください。そのためにも、食事には十分な時間をかけるようにしてください。そして食後は、しばらく座ったままでじっくりと消化を見届け、すぐに活動をはじめないようにします。また、アーユルヴェーダでは食前と食後にマントラを唱えることを大切にしています。日本では食事への感謝の言葉である「いただきます」「ごちそうさま」がこれに当たると言えます。アーユルヴェーダでは、このような良い言葉の波動が、毎日の生活に及ぼす影響を重視しています。

​ 規則的に食事をしていると、予期反応として食前に、消化液や酵素の分泌が促されるようになります。これは、アグニが態勢を整え、完全に消化しようとするためです。しかし、規則的な方が良いからといって、空腹でもないのに無理やり食事をする必要はありません。空腹感がない時はアグニが十分に整っていないという事なので、食事を減らすか、お湯か温かい豆乳にショウガやシナモン、ターメリックなどを加えた物を飲む程度にすれば良いでしょう。あくまでも、その時々のアグニの状況に応じる事が大切です。食事の間隔は、軽食の時は2〜4時間、充分な量を食べた後は4〜6時間が適当です。夕食と翌朝食の間隔は、12時間以上空けるのが良いでしょう。

 『チャラカ・サンヒター』には「適量を食すべき」と表現されています。これは腹3/4〜2/3ほどを指しており、アグニに応じた食物が完全燃焼できる量という事です。動物実験においては、カロリー摂取量を70%に減らすと、寿命が1.5倍長くなったという報告があります。また、自己免疫疾患が自然に起こるネズミを調べた時、摂取カロリーを減らすことによって、疾患が起こらなくなったという事も報告されています。摂取カロリーを減らす場合は、栄養素の割合を考慮しましょう。ポイントは炭水化物をできるだけ減らし、タンパク質や良質のオイルを適度に摂取することです。炭水化物の中でも、小麦製食品に含まれるグルテン(グリアジン)は粘性が高く消化しにくいためアーマを生むことになりますし、アミロペクチンαは砂糖よりも急激な血糖値の上昇を招きます。血糖値が上昇すると、AGEs(最終糖化産物)が生成されます。AGEsは、癌や動脈硬化を促す原因物質であることがわかっています。そのほか、血管内皮細胞を阻害したり、全身のコラーゲンをガチガチにしたりすると言われています。

​食事の割合を考慮する

 『チャラカ・サンヒター』にはまた、「適量とは、消化の火の力によって決まるものである。なぜなら、ある量食べられた食物が、食べた人の自然状態を損なうことなく、しかるべき時間で消化に至れば、その量がその人の適量である」とあります。

 アグニの状況に応じて食事をしていると、夕食の量が少なくなります。夜間はアグニが低下するためです。アグニは時間帯によって変動したり、太陽のエネルギーの強さと連動しています。昼間にはアグニの力が強く、朝と夕は弱まるため、その変化に合わせて食べる量を加減する必要があります。

 

【食事の割合の目安】

  • 基本の食事の割合 → 朝食:昼食:夕食=1:2:1

  • 前日の夕食によっては起床時に消化力が弱くなり、食欲がなくなっている場合の割合 → 朝食:昼食:夕食=0:3:1 

 

いずれにしても、食前には空腹を感じており、食後には体が軽く満足感があるということが大切です。

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 このことはアーユルヴェーダ以外の考え方でも共通しており、中国の諺では「朝は好、昼は飽、夕は少」、天台宗では「朝は一汁一菜、昼は一汁三菜、夜は非時喰(食事をしない)」と言われます。また、消化をするときには空気(空間)が必要となるため、胃内の割合は、空間:水分:食物=1:1:1 か、1:1​:2 が理想的だと考えています。物を燃やすときと同じく空気が必要なので、腹6分目から8分目が良いのです。ちなみに、食事の際には一口あたり32回程度噛むと良いと言われています。時間をかけてゆっくりと噛むほど、唾液に触れる時間も長くなり、多くの量をしっかりと消化できるからです。これは、食物を30秒間唾液に浸すと発癌物質の毒性が除去されるという結果からも合理的なものだと言えるでしょう。

​ アーユルヴェーダでは、自分の住居から周囲2km以内で採れる物や、季節の物を食べることを勧めています。それは、旬の食物がドーシャのバランスを整えるからです。例えば、夏に採れるメロンや桃は、その時期に増加するピッタを抑える作用があります。これは東洋医学で「身土不二」と呼ばれる考え方に添っています。ただ、近年では国際流通機関が発達しているため、季節や場所を問わない作物が多く販売されています。このような季節性のない食生活がドーシャのバランスを崩すことになっているとも推定されています。また、アーユルヴェーダでは、体質や体調によって、ドーシャのバランスを整える食物をとることを推奨しています。6種類の味(甘味・酸味・塩味・辛味・苦味・渋味)の作用を知った上で、現在のドーシャのバランスや体質に応じた食物を選ぶようにしてください。理想的なのは、適度な油分を含み、出来立てで温かく、充分な時間をかけて調理された食物です。こうした食物を選ぶことによって結果的に、食事が美味しく、そして楽しくなります。

 ひとつの味を過剰に取ったり、欠けている味があったりすると、満足感が得られなくなり食事の量が増えてしまいます。食物の選び方は表に示したしたので、自分の体質や体調を知り、「何が適切か」の目安にすると良いでしょう。ただし、前述のように、調理法などによってドーシャへの作用が異なりますから、堅苦しく考えないようにしてください。食事は、本来の自分の欲求に従えば、自然と正しいものになります。嗅覚などを使って、自分にあった食物を選び取ると良いでしょう。そのために大切なのは、内なる知性を磨くことです。​瞑想を含めた健康的なライフスタイルや、アーユルヴェーダが処方する心身の浄化療法によって内なる知性を磨きながら、食事を摂るように心がけてください。

 アーユルヴェーダではしばしば、食べ合わせを問題にする事があります。食べ合わせが悪い物の代表例は、牛乳と魚や肉、酸味がある果実の組み合わせです。そのため、食事中には、牛乳を摂ることはありません。例えば、インドで習慣的に飲まれているチャイは、牛乳と紅茶を一緒に摂る物ですが、これなどは、実はアーユルヴェーダ的には勧められない物です。これは、紅茶に含まれるカフェインが問題というわけではなく、紅茶のカテキン類がカゼインタンパク質と凝集され、吸収されなくなることが知られているためです。ただし、食べ合わせが悪い食材でも、食べる量が少なくて消化力が強ければアーマは生成されません。そのため、食べ合わせにこだわる必要がない場合もあります。ちなみに、肉体労働などをしている人はアグニが強いので、食べ合わせの害も少ないと言われています。

​ 一方で、食べ合わせることで毒性を除去するという組み合わせもあります。これらを知れば、コーヒーやアルコール、アイスクリームなど、体にはあまり良くないと言われる食物さえも、うまく摂る事ができます。このようにアーユルヴェーダは、禁止事項によって食生活を縛るものではなく、食べたい物をうまく食べるための抜け道を教えてくれるものなのです。

​消化促進剤となる白湯 ➖ショウガの効用➖

​ アーユルヴェーダが勧めてる消化促進剤は白湯です。食事中に白湯をすするように摂る事で、消化が促されると考えられます。ただし、食事の直前にお湯を沢山摂ると、アグニを弱める場合もあります。また、食前に摂ると良い消化促進剤はショウガです。

 

【ショウガを使った消化促進剤のバリエーション】

  • ショウガのジュースに蜂蜜を加え、レモン汁やコショウ、クミンなどを振りかけるか、お湯で薄める。

  • ショウガの千切りに粗塩とレモンを振りかけて齧る。

  • ショウガのスライス数枚をカップ2杯のお湯で半分になるまで煎じたショウガ湯を飲む。

 

ピッタが増悪している人は鼻血が出る事もあるため、その場合は​コリアンダーやクミンをお湯に入れ、ハーブティーのようにして飲むと良いでしょう。

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